生体認証、主要6技術の概要

今はどの技術にとって「最高の時代」なのか
「最高の時代」とは、生体認証市場の加速的成長を指します。調査データによれば、2016年に150億ドル規模だった世界の生体認証市場は、15.3%の複合年間成長率で拡大し、2021年には305億ドルに達するとみられます。こうした急成長の中では、どのような技術にも輝くチャンスがあります。
「最悪の時代」とは、生体認証技術に対する関心が高まるにつれ、競争も激化するということです。昨日のブルーオーシャンが今日はレッドオーシャンかもしれません。一歩をためらっているうちに、より優秀な人々や成功した人々の陰に取り残されてしまう可能性があるため、あらゆる技術をできる限り迅速に商業化しなければなりません。
図1 世界の生体認証市場の規模(出所:Forward Business and Intelligence Co., Ltd.)
こうした背景を踏まえ、技術および市場の観点から6大生体認証技術の商業的な未来について概説したいと思います。
指紋認証
指先の皮膚に刻まれた模様を識別するための特徴を比較する技術であり、最も古くから開発されてきた生体認証技術です。さまざまな生体認証技術がある中、指紋認証は、赤外線、容量、無線周波数による指紋採取等、多数の再構成を経て、完全に理解されているといってよいでしょう。高度な商用ソリューションに容易に利用でき、対象となるアプリケーションに自由に組み込むことができます。
市場に関しては、iPhone 5sの個人認証システムに組み込まれて以来、指紋認証技術は急成長し、生体認証市場全体の発展を促しています。指紋認証は将来、スマートロックや車両アクセス等、多様化する製品の「標準」仕様となるとみられるため、市場全体に引き続き一定の成長が見込まれます。その他の生体認証技術が登場しても、指紋は50%超の市場シェアを維持すると予想されます。
顔認証
人間の顔の特徴を識別するこの認証技術は、現在最も勢いのある生体認証技術です。特にiPhone XにFace ID技術が搭載されて以来、顔認証アプリケーションが次々に登場していますが、成功の度合いには大きなばらつきがあります。
その他の技術に比べ、顔認証は迅速かつ正確です。また、非接触式で認識するため、「異物」に接触することによる不快感もありません。そのため、受け入れられやすい技術です。現在のところ、顔認証の最大の商業的課題は、技術の高度化が必要であるということです。ハードウェアとソフトウェアのいずれも、開発には特にFace IDのような「奥行き」の高精度3D認識に関する豊富な専門技術が必要になります。 顔認証には予算がかかり、指紋認証のように近い将来さまざまなソリューションに応用できるというものではありません。しかし、携帯電話をはじめとする消費者向け製品での「タッチダウン」に続き、これからの開発が楽しみな技術です。
図2 生体認証の一般的な技術手順(出所:インターネット)
虹彩認証
人間の虹彩には生涯にわたってほとんど変化することのない複雑な模様があり、赤外線を照射するとその模様を読み取ることができることが明らかになったのをきっかけに、虹彩認証は生体認証の重要な手法となりました。虹彩は指紋や顔の特徴よりもはるかに独特であり、虹彩認証は一般的にこれまでで最も精度の高い生体認証であるといわれています。偽造が困難であること、使い勝手に優れていること、非接触式であることが虹彩認証の主な利点です。こうした理由から、インド、メキシコ、インドネシア等の国では虹彩認証を国民IDに取り入れています。サムスンのフラッグシップモデルであるNote7、S8、S8+でも、特徴的な機能の1つとして虹彩認証が採用されています。
しかし、ユーザーの受け入れに関しては、重要な器官のわずかな部分のみをサンプリングすることや目に赤外線や可視光線を照射しなければならないことが大きく影響しています。虹彩認証の商用化に向けた致命的な欠点の1つとして総費用の低減があまり見込めないことがあり、用途は範囲も規模も限られるとみられます。
音声認証
その他の生体認証が特定の画像の特徴を取得し、それを登録されている特徴と比較するのに対し、音声認証は人間が発する声のさまざまな特徴を取得し、音波グラフを生成します。音声認証も接触の必要がなく、収集が容易で遠隔でも取得可能です。ハードウェアを入手しやすいことも生体認証市場における音声認証の魅力となっています。音声認証は今はすっかり定着し、指紋認証に次ぐ第2位の市場シェアを占めています。
しかし、当然ながら音声認証は話すスピードや口調の変化に特に弱く、また偽造も難しくありません。こうした欠点により、音声認証はほとんどの場合、精度と安全性を高めるためにその他の(生体)認証技術を補完する形で用いられています。
静脈認証
人間の赤血球には赤外線を吸収する能力があるため、(通常は手の)静脈に特定の波長の光を当てることにより、血管の画像を生成できます。静脈の構造は一人ひとり異なるため、その画像を認証に用いることができるのです。静脈認証は、主に2つの特徴から、上記の生体認証技術とは一線を画します。1つ目は、画像は表示することができず、したがってそれを入手し、偽造することができないということ、2つ目は、静脈認証は血液が流れている場合のみ機能するので、生命を認識する技術でもあるということです。したがって、静脈認証は、後述する網膜認証と合わせて「次世代」の生体認証技術といわれています。
こうした特徴を持つ静脈認証には、生体情報を収集するための高度な手法と装置が必要になるため、商業用途に関しては、安全な支払い、ATMでの引き出し、年金給付等、高い信頼性が求められる金融および保険関連の利用が考えられます。幅広い商業用途への拡大には時間がかかるでしょう。
網膜認証
弱い赤外線で網膜をスキャンし、生体情報を読み取る手法です。網膜は体内に「隠されている」ため、偽造が困難な安定した生体的特徴を有します。しかし、この技術はまだ十分に検証されておらず、生体情報を収集する過程でユーザーに身体的な損害が引き起こされないことを示すさらなる証拠を確認する必要があります。したがって、利用可能な技術の中で本格的な商業化が最も遠いのがこの技術です。とはいえ、将来的に特定の場面での用途が見込まれるため、研究する価値はあります。
今後3~5年も市場の主流は依然として指紋、顔、音声認証であり、それら3つの競争はますます激化するとみられます。しかし、特に新たな用途の出現が幅広い生体認証技術に商機をもたらすにつれ、市場も徐々に多様化していくでしょう。ただし、それぞれの技術にとって未来が「最高の時代」になるかどうかは、企業が今、それらの技術にどのくらいの努力を払う意欲があるかにかかっています。

