EV充電のインフラと技術の開発

EV充電インフラ
電気自動車(EV)の充電インフラは、多くの場合、電気自動車供給装置(EVSE)と呼ばれ、EVエコシステムの中核を成しています。これは基本的には、EVを充電するインフラを指しています。モバイルネットワークインフラがモバイル通信の包括的な通信システムを支えるのと同じく、EVSEは、EVの充電パイルを支える包括的な電力供給および制御システムです。
最もシンプルなEV充電ステーションは、通常壁掛けまたはパイル(杭)状の電子装置で、送電網から電力を引き出して車載バッテリーを安全に充電します。充電器の種類によって電流や電圧のレベルが異なり、500ワット(W)から500キロワット(kW)まで、さまざまな車両のバッテリー要件に対応できるようになっています。
ほとんどの車両に、送電網からの交流(AC)をバッテリーの充電に必要な直流(DC)に変換する車載用充電器が搭載されています。 車載用充電器システムを使用すると、家庭や職場、公共の場で、家庭用の標準プラグ(低速交流)または専用のAC充電器(中速交流)を使用して車両を直接充電できます。コンバーターをバイパスして車載バッテリーにDC充電する充電器は、DC充電器やDC高速充電器と呼ばれ、より高速な充電が可能です。
多くの場合、充電器にはある程度のスマート機能が備わっており、ユーザー認証、車両通信、データの収集や監視、決済などを行うことができます。モデルによっては、一定の状況下で二方制御が可能なものもあり、価格シグナルまたはその他の制御要因に基づいて制御システム経由でバッテリーに入る電力レベルを調整します。通信機能の制御を一切行わない他の充電器は、「dumb(ダム=ばかな、無口な)」充電器と呼ばれることがあります。このタイプの充電器は、送電網からの電力を、受電側のバッテリーが必要とする電流と電圧に調整するだけです。
- EV充電システムのハードウェアインフラ
標準的な充電システムには、以下の基本的なハードウェアコンポーネントが含まれます。
- パワーエレクトロニクス部品:充電ステーションの中核です。これらは、EVの車載バッテリー充電器に電力を供給します。
- 充電コントローラ:充電ステーションのスマート機器です。充電器の起動や停止、電力使用の監視、事故に備えた重要なリアルタデータの保存など、基本的な充電機能を管理します。
- ネットワークコントローラ:充電ステーションに幅広いネットワーク接続を提供します。このコントローラにより充電ステーショ通信機器を利用し、ネットワーク通信を行うことができ、システム管理者が機器の利用状況を監視、確認、制御できます。また、ステーションへのユーザーアクセスの管理もできます。
- 充電ガンと呼ばれるケーブルやコネクタ:車両に挿入し、充電器と車両を安全に物理的に接続します。充電ガン(コネクタ)は、一般的に自動車メーカー の特定の標準形式(CCS、CHAdeMO、SAE J1772、IEC 60309など)に準拠している。
- データ管理
EVやEV充電器は、バッテリーの充電率、充電時の使用電力量(kWh)、送電網の価格シグナル、管理システムからの要求応答シグナルなど、バッテリーの充電状態に関連する重要なデータを常に生成しています。 充電管理ソフトウェアは、充電ステーションとそのネットワークの効率的かつ正確な管理、運用を目的としています。 ネットワークソフトウェアは、充電ステーションとそのネットワークコントロールセンター間の双方向のデータプロセスを利用し、EV充電システムの迅速な展開と設定を効果的に促進するとともに、オペレーターが行う遠隔設定、管理、ソフトウェア更新を明らかにします。 充電管理ソフトウェアでは、ドライバーの充電許可の設定と制御、価格の設定、課金管理、利用報告書の作成が可能です。
- 保守およびサービス
EV充電器は、継続的に公共の用に供される機器として、相応のサービスや保守を必要とします。 一般に、公共用の充電サービスは、電力を供給する電力会社ではなく、その所有者や運営者の責任です。 ただし、公共の充電ステーションを所有する電力会社は、当然ながらその所有物の定期的なサービスや保守の責任を負います。
EV充電技術の開発
EVが登場する前は、「range anxiety(走行距離不安症)」という表現は耳慣れないものでした。今では、EVとその充電システムに関する会話には必ずと言っていいほどこの言葉が登場します。EVのバッテリーの目的地に着くまでの電力不足を心配する声もまだあるものの、近年の技術進歩により「走行距離不安症」は大きく軽減されています。技術の進化によりEVバッテリーの充電能力が向上し、より速い充電、より長距離の走行が可能となりました。
最近のEV充電技術の動向について見ていきましょう。
- バッテリー貯蔵
家庭用の充電は比較的単純です。発生したコストは住宅所有者の光熱費に上乗せされ、通常どおり支払われるだけだからです。しかし、仕事中に充電が必要な多くの従業員や、多数の車両を使う企業にとって、充電コストは難しい問題になる可能性があります。そこで注目されているのが、オフピーク時に充電および蓄電を行う蓄電池技術です。オフピークの需要の少ない時間帯は、段階的な価格が低めに設定されています。 勤務時間中などのエネルギー使用のピーク時間帯に、オフピーク時にバッテリーに蓄えられたエネルギーを使い、負荷と価格が最も高くなる時に送電網およびユーザーの負担を効果的に軽減します。そのため、電気代が大幅に削減されます。
- ワイヤレス充電
スマートフォンの充電と同じようにワイヤレスで自動車を充電できる - そんなことができるのでしょうか。技術の進歩は、あらゆる可能性をもたらします。車のような巨大な物体は、大量の充電電力を必要とし、スマートフォンをワイヤレス充電器の上に直接置くのとは明らかに大きく異なります。多くの課題の中には、スペースやコストの問題もあります。まず、ワイヤレスEV充電には以下が必要とされます。
- 追加の充電器を車両に内蔵。車両コストが増加します。
- ワイヤレス充電器を公共の場に設置。非常にコストがかかります。
- 充電器と車両の距離を短くして、効率化を図ります。
Genesis/WiTricity、DKE、Project STILLE(ドイツ)、CATARC(中国)など、多くの自動車メーカーやEVSEメーカーが、EVワイヤレス充電技術の限界に挑戦しています。
- メガワット充電システム(MCS)
EV充電技術の別の一面の進化として、大型トラックや公共交通機関などの大型EVの長距離運行を可能にする高性能充電があります。これは、ハイパワーメガワット充電と呼ばれています。EVワイヤレス充電と同様に、その普及の前には克服が必要な多くの障壁があります。ハイパワーメガワット充電システム(MCS)には以下が必要とされます。
- EVバッテリーの大容量化とケーブルの太径化で充電力をアップ
- 充電負荷の増大による安全基準の引き上げ
- スピードと効率のさらなる向上(真の高速充電とは1MWの電力を15~20分で完了させること)
- 複数車両を同時充電できる高速充電ステーション
現在、メガワット級の充電技術は、小型電気飛行機やフェリーなど一部の船舶に適用されています。メガワット級充電技術を採用すれば、送電網のピーク電力需要に対応するために蓄電池は不可欠となります。
- モバイルEV充電
モバイルEV充電システムには、ポータブル充電器、充電車やトレーラー、一時的充電器などがあります。モバイル充電システムの利点は、常設の充電インフラが不要で、必要な場所に充電装置を移動できる柔軟性を備えていることです。この充電技術およびソリューションは、車の販売店でのEV充電や、路上で電力不足になったEVのレスキュー車によるモバイル充電など、特定のシーンで非常に効果的です。
- 自動EV充電
自動充電とワイヤレス充電にはある程度の互換性がありますが、ワイヤレス充電には通常充電プレートへの駐車などのドライバーの介入が必要な点が異なります。自動充電はその名が示す通り、ドライバーが何もしなくても自動的に充電されます。
電気バスが移動中に充電できるように道路のアスファルトの下に充電プレートを設置したり、駐車場や自宅のガレージのアスファルトの下に自律型充電プレートを設置することを想像してください。自動充電は、自動運転車にとって特に重要です。多様な状況下で、人間のドライバーが介入することなく充電できるためです。 自動運転車が公道で走行するのに、まだ数年かかると思われますが、一部のコンテナ港の荷捌き場ではすでに実用化されています。自動運転EVの充電技術は、高まる需要に対応すべく開発が進められています。
まとめ
二酸化炭素排出量、カーボンニュートラル、道路の電化などが注目されている現在、EV充電インフラの整備は間違いなく加速されるでしょう。近い将来、自動充電やワイヤレス充電機器が、より一般的になる可能性は十分にあります。これによって化石燃料への依存から脱却し、より青い空、よりクリーンな環境、そして、より良い生活を手に入れられるのです。

