パンデミック終息後の時代、医療用エレクトロニクス市場の中心軸はどこに?

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響の規模と深刻さは前代未聞であり、終わりが見えません。パンデミックは世界の多くの国々で猛威を振るい続けており、当初、感染の拡大をうまく防げた国々も、人々の無関心が相まって、冬季の再燃を恐れています。今回のパンデミックがいつ終焉するか誰にもわかりませんが、1つだけ言えることは新型コロナウイルス(COVID-19)が、医療用エレクトロニクス市場を活性化および加速化させていることです。
これまで、この市場はほとんど変動なく、ゆっくりと安定成長する市場であり、歩みの遅い「牛」と捉えられてきました。たとえば、パンデミック発生前の緊急医療機器の世界市場の予測図(画像1)は、細分化した市場が整然と安定成長していることを示しています。ご存知のように、人工呼吸器の需要は、パンデミックが世界中の医療制度を揺るがし始めてから爆発的に拡大しました。2019年の世界の人工呼吸器の需要は、わずか77,000台でしたが、2020年4月の需要は、ニューヨーク市だけでも33,000台でした。同様に、額(ひたい)温度計の需要も急拡大したため、2020年の最初の数カ月で価格が急上昇した後も入手が困難になりました。
画像1 緊急医療機器の世界市場の予測(出典:www.fortunebusinessinsights.com)
しかし、ほとんどの販売業者にとって、このような「予期しない」注文による収入は、ほとんど安心材料となりません。事実、これはサプライチェーンを無秩序に混乱させ、最終的には全体的な事業コストを増やし、利益率を低下させるでしょう。結局、この持続性のない成長は、崖から落ちるように突然瓦解する可能性があります。どの企業もそれを歓迎せず、乗り切れないでしょう。
このような理由により、パンデミック終息後の医療用エレクトロニクス市場で長期的発展を遂げるためには、短期的な市場変動に翻弄されないことが大切です。当社は、現在の市場の小規模な調査と将来の市場の多少の予測に参加していただけるよう、皆さまへ呼びかけています。
医療インフラ
私たちが今回のパンデミックから得た最も重要な眼識は、現在の医療制度の脆弱性を実感したことです。どんなにバラ色に見えても、医療制度は大規模な公衆衛生の危機に直面すると、能力を超えてひっ迫します。将来このような状況を繰り返さないために、私たちは失敗から学び、基本的な医療インフラの改善方法を考えざるを得なくなっています。
医療インフラへ与えた最も直接的な影響は、医療機器の新規購入の増加です。この原動力となったのは、政府の調達と人々の健康認識の高まりです。たとえば、先に述べた除細動器は基本的に心臓用の救急機器であり、特定のシナリオにおいて必須であると考えられていませんでしたが、すぐに標準的な機器となりました。医療用エレクトロニクス市場の将来は、特定の医療機器の需要拡大がもたらすビジネスチャンスに左右されるでしょう。
医療資源の管理では、ハードウェアの追加および更新だけでなく「ソフトウェア」の拡張も必要です。医療資源の管理をデジタル化する技術の使用では、大きな成長のチャンスがあります。たとえば、手術機器の管理に日常的に利用されているRFIDタグの使用は、医療機器の管理へ拡張できます。各企業は、データを収集して眼識を得るために、医薬品やワクチンなど重要な資源の管理にNFCタグを使用する方法を既に模索しています。「データ」の価値連鎖の点でいうと、データの検知および送信から処理に至るまで多くの「チャンス」があります。
画像2 医療におけるRFIDの応用例(画像提供:村田製作所)
運用モデルの変更
新型コロナウイルス(COVID-19)の医療への影響は、医療インフラ分野だけでなく、医療の運用モデル全体でも見られます。
従来、医療資源は、専門家の管理と運用のもと、病院および医療機関に集中していました。このモデルの明確な制約の1つは、有効面積が小さいことであり、これは今回のパンデミックにおいて医療資源がひっ迫したときに明らかになった脆弱性の1つであり、大きな問題となりました。
この問題に対処するために、業界はIoT(モノのインターネット)を用いた遠隔医療システムの構築と運用に期待しつつあります。この新しい運用モデルの中心概念は、IoT技術を利用してエンドユーザー(患者)に近い場所へ医療資源を届けることにより、広範囲を網羅し、即時フィードバックし、非常に効果的な診断と治療を実現することです。実質的に、これにより正規化された健康監視の可能性が現実的になり、疾病の発生前の予防措置に重点を置くことで公的医療戦略が治療から予防へ変化します。
また、新しい運用モデルは、新しい製品およびソリューションも生み出します。血圧モニター、血液グルコースメーター、ECGモニター、超音波スキャナーなど、ますます多くの消費者向け携帯型医療機器が人々の生活に入り込み、従来の専門家向けの医療機器に置き換わっています(または補完しています)。
携帯型の医療機器の到来に伴う課題は明らかです。「新種」の医療機器は、専門的(正確)な性能だけでなく、小型、低コスト、素早い反復、アップグレードなど、他の多くの課題に対処しなければなりません。このように医療モデルが変化する中、「問題点」を素早く発見して解決できる開発者は、市場で新天地を切り開いて勝ち残ることができるでしょう。
画像3 クラリアスがアヴネットの支援を得て開発した携帯型ハンドヘルド超音波スキャナー(画像提供:アヴネット)
医療エコシステムの拡張
医療インフラの構築から運用モデルの変更に至るまで、医療制度全体が将来の社会的発展を支える基本的要因の1つとなることは明らかです。
この概念を中心にエコシステムが徐々に形成され拡大し、最終的に、医療と無関係だった分野へ垣根を越えて入り込むことは避けられないでしょう。この新しい「越境」により、医療と無関係の分野の組織は、「橋を渡って」医療分野へ参入する機会を手に入れるでしょう。
たとえば、パンデミックの渦中にマスクが貴重な資源となったとき、それを必要とする人々へ効率的に届けることが課題の1つとなり、そのための解決策が求められました。この目的で、小売り業界の自動販売機と顧客の健康保険口座をつなぐ「IDベースのマスクの自動販売機」が開発されました。医療保険では、購入記録を通してマスクの割り当てを管理しているため、顧客は、他のベンダーから調達する代わりに自分に割り当てられた数のマスクを自動販売機から簡単に購入できます。
画像4 NXPのi.MXアプリケーション・プロセッサを搭載したIDベースのマスク自動販売機(画像提供:NXP)
当社は、医療制度の改善および拡大とともに、このような垣根を超えた協力がより一般的になるだけでなく、将来の経済社会の長期的発展に対する医療業界の貢献として捉えられるようになると考えています。
パンデミックはまだ私たちの日々の生活にかなり大きな影響を与えており、「パンデミック終焉後」の時代に、めどは立っていません。しかし、私たちが医療分野の将来の「中心軸」を見極めることをやめることはなく、私たちは事前に計画して戦略を立てることができます。ひらめきを大切に、行動を起こしてください!

