「非接触」の時代に慣れ親しむ
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都市にタッチする手

新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックが、私たちの生活を大きく変化させたことは間違いありません。特に人と人との距離は広がりました。感染リスクを考えると、社会的距離(ソーシャルディスタンス)をとることは、他の人との「接触」を減らす、もしくは完全に無くすために必要です。これが、ウイルス感染を止める鍵だからです。

しかし、人間は社会的動物です。人々のつながりと交流が徐々に広がるのは避けられません。私たちは、社会を機能させるために「非接触型」の生活により生まれる距離を縮める必要があります。そこで開発されたのが「非接触技術」です。

事実、非接触技術は単一の技術ではなく、連動する複数のスマート技術の組み合わせです。これら技術は、人々の接触を最小限に抑えつつ、取引などのサービスや交流の円滑化を促します。中には、効率性向上とコスト削減につながる技術さえあります。

良く考えると、非接触技術は基本的に自動化(またはスマート化)であることが分かります。つまり、群衆の密集と人々の接触を減らすために、従来、人の手で行っていた仕事を機械で行うということです。

この技術は、数年前に注目された無人店舗のように、過去にも導入が数多く試みられてきました。しかし、当時、非接触の概念を追求する目的は、コスト削減と効率性向上でした。今は状況が急速に進み、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックの発生によって、当初の目的に衛生と蔓延防止の必要性が加わりました。その結果、この概念を追求する新しいアイディアと機会が数多く生み出され、非接触技術の開発が加速しています。

パンデミックの渦中および収束後、いつ、どこで非接触アプリケーションが利用されるでしょうか?どの技術が、この機に乗じることができるでしょうか?それについて見ていきましょう。

ロジスティクスおよび配送

宅配業者は、オンラインショッピングやテイクアウトなどO2O(オンライン・ツー・オフライン)サービスにおいて、パンデミック発生前のビジネスプロセスで重要な役割を果たしてきました。集荷、分類、輸送から配送確認まで(支払金の受け取りを含みます)、このプロセスの各ステップは業者の身体的および精神的な能力に依存しています。しかし、パンデミックの渦中、宅配業者が仕事の性質上ウイルスに感染する確率が高まってきました。さらに、業者がウイルス伝染の「媒介者」となる可能性もあります。そこで、セルフサービス式の宅配ロッカー、自動販売機、自律走行の配送車など、非接触型の配送ソリューションが急発展を遂げ、過去の多くの概念は現実となりました。


図1:パンデミック中にオンライン・ショッピング・プラットフォームにより導入された非接触型の自動配送ロボット(画像提供:www.XHBY.net)

論理的に考えれば、非接触型のロジスティックスおよび配送ソリューションには「人間らしい」機能が必要です。というのは、従来の宅配業者の役割を引き継ぐからです。したがって、「据置型の」セルフサービス宅配ロック/自動販売機には、少なくとも下記の機能が必要です。

  • マン・マシン・インターフェース(HMI):利用者と情報交換するため
  • ID認証:利用者の本人確認を行うため
  • モバイル決済:共通の支払い方法をサポートするため
  • インターネット接続:有線または無線の接続により、クラウドと情報を交換するため

モバイル配送車、ドローン、その他の同様の輸送手段を利用する場合は、品物を安全かつ正確に届けるために移動や航行の指示、また障害物の回避なども考慮しなければなりません。開かれた環境であるほど、障害物の問題は複雑になります。

つまり、非接触のロジスティックスおよび配送の見通しは明るいといえるでしょう。しかし、事業プロセスおよびアプリケーションの設定が複雑であるため、これまで短期的なプロトタイプ作成とビジネスモデルに重点が置かれてきたのは事実です。大規模な導入は、まだ先の話です。とは言っても、これら技術は、高性能アプリケーションプロセッサ(グラフィックHMI用のプロセッサなど)、無線通信モジュール(ローカルおよび広域接続を含みます)、環境センサー、その他多くのイノベーションの開発および利用の原動力となってきました。

スマートショッピング

オフラインでの物理的なショッピングの場合、群衆の密集度が高く、触れ合う頻度が多くなります。この状況において非接触技術は、主にショッピングの案内と支払いに重点が置かれています。

本来、ショッピングの案内は、十分な商品情報を顧客へ提供する店舗の専任スタッフの仕事です。そこで、物理的な接触をなくす必要性を考えると、商品情報を各製品のNFC電子タグと結び付けることができます。顧客は、スマホをタグにかざすだけで簡単に関連情報へアクセスし、完全なセルフサービスのショッピングができるのです。

NFC電子タグを利用したショッピングでクールさが足りないならば、買い物客を没頭させるAR技術を用いたショッピングがあります。ARによる「魔法の鏡」を使用するなら、商品を試着するにせよ、新しい化粧品を選ぶにせよ、それを身に着けた顧客の姿をシミュレートし、本人に合った提案を示すことができます。これにより、ショッピングの案内係との直接的な接触が減るだけでなく、ショッピングの幅と楽しさが増します。このプラットフォームは、オンラインでもオフラインでも導入することができ、オンラインアプリのかたちで提供されます。この技術は、人、商品、および店舗の空間の新たな関係を構築できるため革命的であり、新しいポータルと考えることができます。


図2:ARによる魔法の鏡を使用した新しいポータル(画像提供:Meitu)

現在、顧客は、支払い方法としてARコードのスキャンまたは非接触型NFCを使用したモバイル決済に慣れています。しかし、この2つはいずれも「近接」の支払い方法であり、より長距離で使える支払い方法を導入するためには、新しい技術が必要です。

超広帯域(UWB)通信は、この役割を果たせる重要な候補です。UWBは、ミリ単位までの正確な距離測定と位置決め機能を備えており、高度にカスタマイズ可能で、識別可能な電子タグとして使用できます。店舗内の決済端末は、顧客がUWB電子タグ付きの商品を持っている場合、1メートル以上の距離からでも検知できます。検知後、支払いを実行するために手動での入力は不要であり、顧客の操作も不要です。あたかも顧客が「商品を手に取って店を出る」かのようです。また、小売業界は、これらタグを使用して、より個人向けにカスタマイズした非接触サービスを開発できます。可能性は無限です。

RFIDおよび視覚的なソリューションは、非接触型・非近接型のスマート支払い方法の分野で発展し続けていますが、UWBは、より多くのスマホで標準機能となりつつあり、他の技術よりも素早く支払い分野に浸透する可能性があります。


図3: UWBに基づく新しい小売サービス(画像提供:NXP)

群衆管理

交通、セキュリティ、スマートビル、公共の場など、歩行者の多い環境で群衆を分析、識別、および管理することは不可欠です。この目的で開発されたソリューションは、非接触サービスを提供することによって人員への投資を削減できるだけでなく、信頼性と高い効率性がなければなりません。そうでなければ、多くの群衆が集まることにより、衛生および安全リスクが急拡大するかもしれません。

都市交通の分野において、NFCは既に改札口で一般的に使用されてします。しかし、動作範囲が限られているため、ラッシュアワー時に群衆ができてしまうなど、この技術はさらなる進歩が必要です。そこで、従来、物体検知に使用されてきたUHF RFID技術を導入することにより、有効距離を改札口まで広げる試みが行われてきました。理論的に言うと、そのためにはHF(NFC)とUHFという2種類のRFIDを交通系カードへ組み込む必要があります。このデュアルチャネルのカードによる改札口へのアクセスは常時接続となるため、改札口では「非接触型」のカードの有効性をUHFで認証するだけで十分です。乗客は改札を通るためにカードを通す必要がないため、ラッシュアワー時の改札口で人の流れがスムーズになります。

群衆管理の観点から見ると、もう1つ非常に効率的なソリューションとしてマシンビジョンがあります。ハードウェアの性能とソフトウェアのアルゴリズムの改良が続く中、特に機械学習の導入により、開発速度が増しています。マシンビジョンは、ある人物の顔認識をサポートするだけでなく、交通量の多い環境で複数の人々の顔を捕捉して認識できます。この技術と遠隔非接触型IR温度検知技術を組み合わせることにより、パンデミックに対する完全な群衆管理ソリューションを構築できます。

もちろん、プライバシーが重要な状況において視覚的なソリューションの用途は限られています。このような状況では、ミリ波レーダーセンサーが優れた代替手段となります。この技術は画像を直接取得できませんが、ミリ波レーダーセンサーは、移動する物体の方向、速度距離、位置、その他の非常に正確なデータを検知できます。特に60GHzレーダーセンサーを導入および利用することによって、呼吸や心拍など、微細な動きを非接触で捕捉できます。つまり、より敏感な非接触「知覚機能」がスマート機器に加わるのです。


図4:60GHzレーダーセンサーを使用したアヴネットのジェスチャー認識ソリューション(画像提供:アヴネット)

人と機械のインタラクション

人と人の接触が減る中、人と機械(スマート製品)のインタラクションは増えています。したがって、自然で非常に効率的な人と機械のインタラクション(HMI)は、すべての非接触ソリューションの中心となりました。

現在の主流であるタッチ画面を使用したグラフィックHMIでは、同じHMI機器を使用する人と間接的に接触してしまいます。そのため、2種類の非接触型HMI技術、つまり顔認識と音声認識が重要な焦点となっています。データによると、顔認識によるドア・アクセス管理機器の出荷は、2020年に50%以上増加しており、2019年の14%増と比較して大幅に拡大しています。分析によると、これは主に新型コロナウイルス(COVID-19)がもたらした非接触の需要拡大が理由です。

さらに重要なことは、複数の技術を組み合わせたソリューションは、人と機械のインタラクションをより円滑にするために採用されることが多いということです。たとえば、少し前に、NXP Semiconductorsは1台のMCU(i.MX RT 106F/S Crossover MCU)で顔認識と音声認識を実行するソリューションを発表し、このソリューションを使用したビル・オートメーションにおける典型的なアプリケーションを紹介しました。ある人がエレベーターに乗ると、エレベーターはその人が勤務する階を顔認識で「判断」し、特定の階へ行きたいか否かを尋ねます。ボタンを押す必要はなく、音声命令で特定の階へ行きたいとエレベーターに答えるだけでよいです。このシームレスな非接触型のHMIは、間違いなく他の分野でも利用できます。


図5:MCU を使用したNXPの顔認識および音声対応スマートHMIソリューション(画像提供:NXP)

まとめると、人々は新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックの発生によって物理的な距離をとることを強いられてきましたが、非接触型の技術とソリューションが橋渡しとなり、実際には多くの点で「より近く」なりました。これは、まだ続いているパンデミックにより促進された技術発展における多くの利点の1つにすぎません。非接触の時代が「強制的に」もたらされたにも関わらず、AR、マシンビジョン、音声インタラクション、UWB、NFC、RFID、またミリ波レーダーセンサーなど、さまざまな新技術が生まれたことは、パンデミックの「希望の兆」と捉えることができるでしょう。

「非接触」の時代に慣れ親しむのが今であることは明らかです。

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