IIoTとエッジ・コンピューティングで「ショートボード」問題をどのように解決しているか

開発者はなぜ常に統合と差別化を求めて努力を重ねているのか
工業生産プロセスでは大量のデータが生成されます。このデータを、不具合の予測、機器寿命の最適化、プロセス効率の向上などに有意義に利用するなら、市場の需要に応じることができます。いかなる産業ネットワークにおいても、最初のステップはデータ収集です。次に、ローカルでリアルタイムなデータ処理と長期的なオフライン・データ保存のバランスをとることが試みられます。その後、工業生産プロセスを最適化するために、さまざまな対策が取られます。
情報が収集され、中央に送信されます。情報が比較的早期に送信されるなら、短期間のIT機能停止は、通常、許容範囲内に収まります。しかし、世界中の企業のIT依存度が高まるにつれ、機器のメンテナンスに時間を費やすことがますます難しくなっており、現在の技術で達成できる応答時間によって企業は弱体化しています。ただし、先進技術の観点から言うなら、現代のITシステムはAIと機械学習(ML)を組み合わせた強力なスイートであり、センサーのデータ・パケットの変化に対するITインフラの応答速度は高まっています。
Intel社はすでにIIoTエッジ・コンピューティングをメンテナンス予測アプローチに利用しており、300パーセントという驚異的な工場ダウンタイム短縮率を達成しています。産業用IoT(IIoT)センサーやエッジ・コンピューティングを配備し、半導体生産設備のファン・フィルター・ユニット(FFU)の健全性を監視することで、問題が起こる可能性がある際に技術者に警報されます。また、予防保全のスケジュールを立てたり予定外のダウンタイムを減らしたりすることもできます。工業用機械内部の空気をフィルタにかけて清潔にするFFUのモニタリング/メンテナンスは、通常は手作業で行われるため、不具合を予想することが困難です。
特にIntel社では、アクセラレーターを各FFUの上部に配置してファンの機能のばらつきを測定し、ツールと車両の両方を対象に、挙動を比較するための基準値を作成しました。また、アクセラレーターをゲートウェイおよびエッジ・アプリケーションに統合し、その周辺の機械学習アルゴリズムを開発しました。 これにより、各FFUのベースライン性能が作成され、変化を測定したり、異常や起こりうる問題に対する警報を容易に生成したりできるようになりました。その後、サマリー・データがクラウドに送信されることで、ツールの所有者は、基準や傾向を把握したり、システム異常の警報に応答したりできるようになります。 この技術により、交換部品の発注やメンテナンスの事前スケジューリングが可能となったため、FFUのアップタイムが97パーセント以上増加しました。また、材料の損傷を引き起こす恐れのある製造プロセスでのプロセス逸脱が効果的に排除されました。
FFUは、複雑なプロセスのなかの1つのコンポーネントにすぎませんが、工場での投資利益率を示す規模としては十分に小さいながらも、影響度は十分に大きくなっています。FFUは、エッジ・コンピューティングやクラウド・ベースのIIoT予知保全ソリューションのROIにおける可能性をはっきりと示しています。
IIoTとは何なのか。
IIoT(産業用モノのインターネット: Industrial Internet of Things)とは、さまざまなセンサー、コントローラー、モバイル通信ネットワーク、インテリジェント解析技術を、センシング機能やモニタリング機能とともに、あらゆるレベルの産業用生産プロセスに 連続的に統合することです。IIoTは、製造効率と製品品質を大幅に向上させ、製品コストやリソース消費量を減らし、スマート化により伝統的な産業を次のレベルに引き上げます。
クラウド・コンピューティング・ソリューションは、産業の総合ネットワーク・ソリューションにおいて最大のシェアを持っています。
エッジ・コンピューティングとは何なのか。
エッジ・コンピューティングは、ネットワーク、コンピューティング、ストレージ、およびコア・アプリケーションの各機能を、物体やデータのソースの近くで統一するオープン・プラットフォームです。 この技術では、重要なデータの処理や保存をローカルで行うことができ、その後、中央のデータ・センターやクラウド・ストレージに送信できます。エッジ・コンピューティングは、クラウド・コンピューティング・システムの最適化やデータ送信の中断予防に役立ちます。クラウド・サーバーは、スマート・エッジ・デバイスの制御ノードとなりサマリー解析を行います。
これまでは、機械の主要部分が取り除かれたり損害を受けたりすると、機械全体が機能しなくなっていました。また、その部分がすぐに検出されなかった場合は機械全体のチェックが必要となるため、生産が遅れ、人材が独占されることになります。 実際のところ、たった1つの「ショートボード」によって機械全体の動作が停止していました。さまざまな意味で、IIoTはこの機械のようなものです。ただし、タイミングよくこうした問題を解決できる、あるいは起こりうる不具合についての報告や警告を送信できる専門のモニタリング・ツールがあるなら、人員は、機械が完全に稼働不能となる前に機械全体をオーバーホールできます。そのため、現在のエッジ・コンピューティングの開発では、この「ショートボード」問題を解決することを目指しています。また、これは、エッジ・コンピューティングがIIoTを再定義できると多くの人が信じている理由でもあります。
しかし、実際のエッジ・コンピューティングはそれだけではありません。需要が増加の一途をたどるなか、Industry 4.0はもはや議論の中心ではありません。 現在の大きな論点は、製造業界のデジタル・トランスフォーメーションを加速するために業界が今後取る形態です。IIoTインフラストラクチャーに資本投資する主な理由は、生産最適化を促進したりメンテナンス・コストを削減したりできる見込みがあるからであり、これらはいずれも即時かつ測定可能な利益をもたらします。
従来のIIoTモデルにおいて、センサーやハードウェアの仕事は、データを収集し、内蔵のネットワーク接続を介してデータを上層のIoTサーバーやプラットフォームに送信し、送信されたデータに応じてデータ解析、データ可視化、およびアプリケーション開発を行うことでした。最終的に、経営側が解析や可視化の結果を使用して機械メンテナンスや生産プロセス最適化のプランを作成していました。
しかし、データのほとんどには瞬間値があるため、上層のサーバーに送信されるのを待つ必要はありません。 データ処理をネットワークのエッジに移動する必要があることから、また処理能力に対する要求が増え続けていることから、別の種類のIIoTネットワークが作成されました。このIIoTネットワークは、厳格な階層を持たないかもしれませんが、広範囲な接続方法や処理方法をさまざまな形態のエッジ・デバイスに組み込みます。
クラウド・コンピューティングの身近な例え
手を火傷した場合、まず何が起こるでしょうか。痛みを感じる?それとも、手を引き離す?
実際、人が熱い物体に触れた場合、何よりも先ず、その物体から手が自動的に引き離されます。これは、脊髄を通して中枢神経系に送られる本能的反応です。脳が痛みを感じるのは、その後です。手を引き離す前に脳が痛みを感じるとしたらどうなるでしょうか。おそらく、反応する前に、手が「ウェルダン(良く焼かれている状態)」になっていないか確認しなければならないかもしれません。
クラウド・コンピューティングは脳に似ており、エッジ・コンピューティングは中枢神経系による体の制御に似ています。すぐに避ける必要がある非常に熱いまたは尖ったものなどの障害物に手が当たった場合、脳の反応時間では遅すぎます。そのため、体の各部位がそれぞれの「エッジ・デバイス」を持っている必要があります。コンピューティング能力はクラウドからエッジへと移行し、エッジ・コンピューティングという概念を生み出しました。
では、エッジ・デバイスとはいったい何でしょうか。Intel社のFFUをモニタリングする前出のデバイスが、エッジ・デバイスです。たとえば、ローカル温度を正確に測定し記録できるセンサーやAIカメラは、すべてエッジ・デバイスであるといえます。こうしたエッジ・デバイスをコンピューティングに使用することを「エッジ・コンピューティング」と呼んでいます。将来、エッジ層はぼやけ、エッジ・デバイスはますますインテリジェントに、そしてますます多様化するでしょう。
「脳」の準備は整ったが、「中枢神経系」が不可欠
クラウド・コンピューティングは産業界でますます使用されつつあり、その出現に合わせて、時には出現の前ですら、問題への対処や解決はますます容易になっています。手短に言えば、エッジ・コンピューティングは次のような場合に不可欠です。
- IoTデバイスの接続が悪い
- アプリケーションが機械学習(ML)に依存しており、応答に大量のデータが必要である
- セキュリティとプライバシーのため、データを工場内に保管する必要がある
- 計算量を減らすため、エッジにある生データを事前処理する必要がある
エッジ層のスマート化やぼやけにより効率の大幅な向上がもたらされましたが、セキュリティ・リスクも大幅に増大しています。こうしたリスクの一部は、規格や仕様の欠如または不確かなセキュリティ品質が原因で発生しています。産業ネットワークは閉じていますが、エッジ層の機器はインターネットにさらされています。 エッジ・デバイスは、集中セキュリティ管理の制約を受けないため、簡単に悪用できるセキュリティ上の抜け穴があるに違いありません。しかし、遅延により発生する時間的および資金的コストを解決できるエッジ・デバイス内にコンピューティングを構築することは理にかなっています。もともとは集中管理機能を統合した産業用ネットワークとして考え出されたにもかかわらず、今後エッジ・コンピューティングの開発は、間違いなく分化し多様化するでしょう。エッジ・コンピューティングにより、機器サプライヤーは、大量の新しいソフトウェア、ハードウェア、ソリューションを販売する機会を得ます。 当然、多くのソフトウェア販売業者やチップ販売業者はすでにその方向に舵を切っています。
普及している開発動向を共有する製品だけが、最終的な勝者となるのかもしれません。ソフトウェアとハードウェアの差別化、結合の減少、クラウド・コンピューティングからエッジ・コンピューティングへの移行、そして統合から差別化への移行は避けられません。今のところ、最もコンバージェンスが進んだ製品は、その利便性から、おそらくスマートフォン以外にありえません。初期コンバージェンス後、利便性に押されて他の製品が徐々に分化することに疑う余地はなく、さらにコストが削減されるかもしれません。
開発者たちは競い合うように、エッジ・コンピューティングの事実上無限の可能性を利用しているため、近い将来、「ショートボード」問題は過去のものとなるかもしれません。
追加情報
「フォグ・コンピューティング」とは、エッジ・デバイスとクラウド間のやり取りを意味します。エッジ・コンピューティングは、センサーと人々の間の工場内ゲートウェイとして動作する、コンピューティング能力を備えたIoTデバイスを意味します。ある意味、エッジ・コンピューティングは、フォグ・コンピューティングのサブセットといえます。 エッジ・コンピューティングは、クラウド・コンピューティングに一定の影響を与える一方で、クラウド・コンピューティングとの強い相乗効果をもたらすのです。

