EVの「高速充電」は、どの程度、高速か?
EVの「高速充電」は、どの程度、高速か?

EVの「高速充電」は、どの程度、高速か?

EVに急速充電中

EVのドライバーは多様ですが、走行距離と充電場所に関する疑問点で一致しています。本日は、EV(電気自動車)の充電という具体的な懸念に関してお話します。

中国EV充電インフラ促進連盟(EVCIPA)によると、国内の充電スタンドの総数は2020年末時点で168万1000万カ所でしたが、2021年7月までに201万5000カ所に増加しました。前年比50.2%増です。確実に増加していることは明らかです。

しかし、一部の人々は、2026年までに中国の新エネルギー車(NEV)の台数が3350万台へ増加すると予測しています。EVと充電スタンドの比率は、3対1と推定されているため、その時点までに中国のEV充電スタンドの累積需要は1116万カ所を上回るとみられます!この需給ギャップは、実際のところ非常に大きなものです。

EV充電スタンドの数に加え、充電速度も懸念の1つです。たとえば、100 kWのDC充電器を使用して容量60 kWhの自動車をフル充電するためには約36分かかり、走行距離は約330キロです。それと比較して従来の燃料自動車の場合、同じ走行距離の燃料補給に必要な時間はわずか3~5分です。利用者が体験するこのようなギャップは、EVメーカーにとって受け入れ難いだけでなく無視できません。

したがって「高速充電」は、EV充電スタンドの設置において解決すべき重要な課題の1つです。

「高速充電」の限界に近づく

「高速充電」は、どの程度、高速化できるでしょうか?この疑問に答えるために、私たちは、EVの充電方法を検証する必要があります。充電には、AC充電とDC充電の2種類があり、これらは互いに技術的アーキテクチャーが異なります。

AC充電の場合、送電線から得たACがACソケットまたは充電スタンドを介してEVの車載充電器(OBC)へ接続され、OBCがACをDCへ変換し、DC電圧および電流でバッテリーに充電します。

DC充電の場合、送電線から得たACは、車外のDC電源へ(通常は充電スタンドにより)変換され、バッテリーはOBCを介さず直接充電できます。AC-DC 変換は車外で行われるため、スペース、費用、重量、または熱管理において過度な制約がありません。そのため、DC充電は充電能力を向上できる余地が大きく、EVの高速充電にとって重要な「追い越し車線」となっています。


図1:EVの2つの充電アーキテクチャー(DCおよびAC)の比較(画像提供:Yole Development)

一般的な分類方法によると、EV充電は3つのレベルに分割できます。

  • レベル 1:このレベルにおいて、電気は主に都市電源から供給されます。この場合、AC電圧120VAC/230VACおよび充電電流12A~16Aが供給されます。これによる充電能力は2kWの範囲です。
     
  • レベル 2:このレベルでも、ACは多相240VAC充電スタンドに依存します。充電電流は15A~80Aへ増加し、充電能力は22kWに到達できます
     
  • レベル 3:充電に22kW以上の電力が必要な場合、DC充電が必要となります。レベル3では、DC充電スタンドから300V~750Vの高圧DCでバッテリーを直接充電することができ、テスラのスーパーチャージャーV3の場合、電力は数百キロワットに到達できます。これは、最大250kW のピーク充電能力をサポートできます。V3は走行距離250 kmまで、わずか15分で充電できると言われています。現在、最も一般的なDC充電能力は22~150 kWであり、多くのメーカーは200~350 kWを主な目標としています。また、最大400 kWのDC充電も試みられています。

明らかに、「高速充電」の限界はレベル3 DC充電でのみ到達できるのです。

異なる高速充電規格

しかし、この「3レベル」の分類は、あまり厳密に定義されていません。さまざまな業界団体および主要メーカーは、高速充電インフラ(EV充電スタンド)の構築に向けて関係者全員が歩調を合わせるために必要な規格および規制を強く求めています。

たとえば、国際電気標準会議(IEC)が策定したIEC 61851EVのコンダクティブ充電システムの国際規格)では、EV充電を4つのモードに分類しています。最初の3つはAC充電で、4つ目がDC充電モードです。これは最大電流400Aで600Vを供給することができ、最大充電能力は240kWに達します。

北米では、自動車技術者協会(SAE)が策定したSAE J1772 管理規格は、4つの充電モード、つまりACレベル1 、ACレベル2、DCレベル1 、およびDCレベル2を定義しています。この4つの中で、DCは電圧200~500Vを供給し、DCレベル1および2は、それぞれ最大40kWおよび100kWの充電能力をサポートしています。

CHAdeMOは、日産、三菱、トヨタ、日立、ホンダ、およびパナソニックを含む複数の日本メーカーにより設置された協会であり、一部欧州メーカーも参加しています。この協会は、DC高速充電専用のCHAdeMOプロトコルを策定しています。また、最新版であるCHAdeMO 2.0は、400kW/1000V DC充電をサポートしています。報道によると、CHAdeMOは超高出力充電規格「ChaoJi」を、中国電力企業連合会(CEC)と共同開発中です。目標は、なんと900kWです!

DC高速充電の分野では、CCS(コンバインド充電システム)規格も存在し、注目に値します。CCSは、米国および欧州の8社の自動車会社により共同で推進されています。このシステムは、互換性のない無秩序な充電インターフェースを統一することを目指しています。CCSの目標は、AC充電およびDC充電の両方で同じ物理的なインターフェースをすべてサポートすることです。CCSシステムは、IEC、SAE、またISO規格と互換性があり、単相および三相のAC充電をサポートします。現在は200kW DC充電をサポートしており、350kW充電をサポートするソリューションが開発中です。

迅速なソリューション

DC高速充電規格の進化は、明らかにEV充電スタンドの開発に新たな課題をもたらしており、これは2つの面で顕在化しています。1つは、製品およびソリューションのアーキテクチャーを各規格および出力要件に適合する必要があること、もう1つは、拡張性および規格の「アップグレード」への対応です。つまり、迅速な設計が必要だということです。

迅速性を達成するため、モジュラー方式には現実味があります。開発者はモジュラー方式のアプローチを採用することにより、15kW~75kW(以上)の出力モジュールを積み重ねて充電スタンドシステムを実現できます。これにより、具体的なニーズに基づいて、EV向けに150V~1000VのDC充電アプリケーションを簡単に提供できると同時に、電圧および出力も最適化されます。


図2:複数のパワーモジュールを積み重ねて高出力のEV DC高速充電システムを実現(画像提供:onsemi)

たとえば、オン・セミコンダクターは、双方向性を備えた25kW DC充電モジュールを開発中です。400Vおよび800Vのバッテリー充電をサポートし、より高い電圧レベルをサポートするために最適化されています。


図3:オン・セミコンダクターが開発した双方向25kW DC充電モジュール(画像提供:onsemi)

EV市場の発展の速度向上により、EV DC高速充電の需要は急上昇および急拡大しました。EV高速充電が「特典」から「日常生活の一部」へと変わるのは、いつでしょうか?すべては、EVの時代とともに始まるのです。

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