"宇宙から来た" 炭化ケイ素の現在価値は?

有史以来、人類は、新素材を絶え間なく探してきました。科学は、しばしば自然の摂理に挑んできました。人類は、全知全能の神であるかのように驚くべき新素材を生み出し、産業と社会変革をもたらし、文字どおり歴史の流れを変えてきました。
その1つが炭化ケイ素(SiC)です。自然界で見つかることは非常に稀であり、46億年前に生まれた隕石から微量に発見されたにすぎません。最近まで、46億年前に誕生して地球に辿り着いたこの「外来」物質は、謎のベールに包まれていました。今では、この外来物質のベールが剥がされ、人々の日々の生活に入り込んでいます。
シリコン系半導体が壁にぶつかったらWBGの出番
あらゆるコンポーネントは、単位体積あたり電力変換量に「上限」があります。第1世代および第2世代の半導体材料は、出力パワーの点で上限に達したと思われます。シリコン系(Si)パワーコンポーネントは、過去50年以上に亘り、現代の産業技術およびさまざまな家電機器の発展を開いてきました。しかし、シリコンを土台とするデバイスの性能を向上させる潜在性は限られています。多くのメーカーは、性能を向上させるためにデバイスのサイズを大きくせざるを得ませんでした。

シリコンデバイスは、ワイドバンドギャップがわずか1.12eVであり、現代の高出力アプリケーションの要件を満たせません。他方、ワイドバンドギャップ半導体(WBG)は、臨界電界が高いため、より薄型でより高いドープの電圧ブロッキング層を実現でき、大半のキャリアアーキテクチャでオン抵抗を数桁減らすことができます。WBGは、高い破壊電界が高く伝導損失が小さいため、同じブロッキング電圧およびオン抵抗を維持すると同時に小型化を可能にします。つまり、高圧または高温などの過酷な環境で優れた性能を持つ小型、高速、および効率的なデバイスを開発できます。WBGは、このような多くの利点により、さまざまな新しいアプリケーションを生み出す重要な「触媒」としての役割を果たしています。
パワーエレクトロニクスの分野は、半導体プロセス技術の発展から大きな恩恵を受けています。炭化ケイ素を利用したWBG半導体は、カーエレクトロニクスを含むさまざまな成長分野で利用され始めています。EVにとって効率性が重要なことは明らかです。パワートレインシステムの主要部品の1つであるEVのインバータでは、その性質上、高い電力密度が求められます。車載用パワーデバイスは、EVのボディを形作るだけでなく、コスト削減および軽量化の点でも重要な役割を果たします。かつて低損失および高出力のSi IGBTモジュールがベースであった高出力密度集積技術は、自動車駆動システムにおいて他に代用できない役割を果たしています。
自動車メーカーの新たな寵児 ― SiC
システムの軽量化と充電時間の短縮の要求に加え、より高電圧および高出力のパワーの要求も高まっています。SiCパワーデバイスは、従来のSi IGBTパワーモジュールと比較してオン抵抗を約2桁低減できます。また、出力を高めつつ、インバータを効果的にの小型軽量化できるため、設計者の自由度が高まります。さらに、SiCパワーデバイスは、電力変換システムに応用した場合、電力損失を大幅に低減できるます。このような理由により、SiCパワーデバイスは、シンプルかつエレガントで、実用的なパワーデバイスとして認識されています。
SiCパワーデバイスをNEV(新エネルギー車)に適用することにより、電池の寿命(航続距離)を延ばすと同時に充電時間を短縮できます。都市部での低速走行による省エネという本来の利点を考えると、NEVは、消費者が求める「理想的な車」に近づきつつあります。SiCは完璧が完璧でないことは、明らかです。比較的高いコストおよび歩留まりの低さは、対処する必要があります。このような理由により、SiC半導体は、現在、ハイエンドの高性能NEVにしか搭載されていません。現実的に言って、大量生産に至る道のりは長いです。

ムーアの法則後の今日、カーボンニュートラルへの要求が高まっており、第3世代の半導体は、大手半導体メーカー「激戦区」となっています。SiC半導体が脚光を浴びている今、まさに車載用半導体の希望の星です。
「宇宙から来た」素材であるSiCの地球上での未来は明るいようです。
